私たちが住む星地球は46億年前に誕生したと言われる。そして35億年前には生命の起原が誕生し、さらに5億4000年前のカンブリア紀に史上最大の革命と言われるカンブリア爆発が起きる。こうして私たちの地球は現在確認しうるかぎり、宇宙に浮かぶ数多(あまた)ある星々の中で、870万種を超す生命があふれる唯一無二の豊かな星となった。
その地球史は、先カンブリア紀に始まり、カンブリア紀、そしてジュラ紀、白亜紀など恐竜の時代を経て、我々が住む新生代にいたる。
ところが2000年以降ある学者の提案により、この地球史を区分するにあたり大きな議論が巻き起こっているらしい。
3月中旬、ドイツの知人が日本での仕事を終え我が家を訪ねてくれた。彼は、ミュンヘンにある世界最大の自然科学系博物館とも言われる“ドイツ博物館(Deutsches Museum・全行程17km、展示品目17,000点超)”の“展示および収集”部門で部長職を勤めており、話題も豊富で会うたびにわくわくするような心地よい刺激を与えてくれる。
2年ぶりの再会は、その後の家族の様子や、同時期に訪日していたメルケル・ドイツ首相の話しなどなど、話題は尽きず楽しく展開していった。そんな中で、特に今回彼の訪日目的であった筑波にある科学博物館で行われたワークショップ(実際は研究会か?)についての話は、大変興味深かいものであった。
テーマは、「Anthropocene(アントロポセン:人類の時代? or 人新世? etc.)」。
今回のブログではそのことについて少し触れてみたいと思う。
この新しい単語は、大気科学者でオゾンホールを世に知らしめた、ノーベル化学賞受賞者パウル・クルッツェン(Paul Crutzen)が、2000年に学会誌で提案した造語で、これまで地球史を語る上で注目されていなかった新たな区分として現新世代に、 “Anthropocene(アントロポセン)”(今のところ日本語訳は確定していない)を付け加えることが提唱され物議をかもしているのだと言う。
下記に記した地球暦を見るとお解りかと思うが、地球史を1年に例えた場合、現生人類が登場したのが、12月31日23時58分頃と言うことになる。たった2分ほど(暦上では)の短い間に人類は誕生し、知恵を手に入れ、地球上で爆発的に繁栄した。言葉を操り、火を使い、そして道具や機械を作り自分たちにとって、住みやすくなるよう地球のあらゆる要素を都合良く分解し、改良し、摂取し拡張し続けている。
単一の生物が化学物質の分布や生物学的な環境を急激に変え、しかもその事実を自覚していると言う事態は、46億年の地球史においても過去に例がないとのこと。
人類によってもたらされた変化の痕跡は、地質学的にも非常に大きく、化石燃料を燃やすことで、二酸化炭素濃度は少なくとも過去80万年、もしかしたら過去300万年ぶりの高水準となっていると言う。ご存知のようにその結果おとずれた温暖化によって、氷河や永久凍土の融解、海水の酸性化など、まさに今、地球規模の変化が起きている。
ドイツの知人が参加した今回のワークショップには、世界各地から生物学者や経済学者、数学者や宇宙科学者等が集まり、時に激論を交わしながら“Anthropocene”について区分点をどこにおくか(人類が誕生した時点、社会を形成するようになった時点、産業革命以降)など議論が白熱したという。
確かに私たちはこれまで、主に国の分布(人間が造った社会)などを記した地図の上で人間を中心に物事を考えてきた。そのため、母なる星“地球”のことに想いを馳せながら考える意識があまりにも薄かったかもしれない。
私たちが魚や虫や鳥、また植物や鉱物を見るように“ヒト”を一つの種として捉え、地球規模で客観的に分析し、そして、今後人類が進むべき方向を見いだすような画期的な議論がなされているとするならば、目を離すことができない。
定義がまとまり正式に受け入れられるまで、あと20年かかるとも言われているこの“Anthropocene”についての議論。今後どのように展開されていくのか。私たち自身もこの問題を共有しつつ議論の行方を注視したい。
- 参考: http://karapaia.livedoor.biz/archives/52081277.html
http://time-az.com/main/detail/29414
共通科目:現代美術論・芸術企画論など専門教養担当教員